個人的には、役者とは芝居やエンターテイメントを通じて見てくれた人の心に何かを残せる人だと考えています。
・食っていける役者(表現者)とは?
・役者とはどんな人であるべきか?
・役者という生き方の難しさ。
・役者という仕事の素晴らしさ。
・何のために役者をやるのか考える。
本記事では、役者(表現者)とは何なのか実体験を元に考えてみたいと思います。
この記事を読むと分かること
1.現実問題として、役者の苦労が分かります。
2.表現することの素晴らしさが分かります。
この記事を書いている人
芝居をして生活しています。役者という生き方を10年以上続けてきました。自分の経験を元に「表現者とは何か?」を振り返ってみたいと思います。
目次
役者とはどんな人であるべきか?

役者とは、芝居やエンターテイメントを通じて、人の心に何かを残せる人だと考えています。
役者(表現者)とは人の心を動かせる人

役者は誰かの心を感動(喜怒哀楽の感情)させて初めて「良い芝居をした」と評価されます。形のない物を提供する生き方なので、人の心を動かして初めて評価されます。評価されればその分のお金がもらえることになります。
義務教育の中で役者の生き方について教えてくれません。
社会的立場は芸術家です。絵の場合、絵が評価されて価値が生まれます。価値があるから人は絵を見たくなるし所有したくなるのでお金を払います。
「好きだから芝居をやってられたらそれでいい」は単なる綺麗ごとです。生きる為にはお金がかかりますし、芝居のスキルを磨くためにもお金は必要です。
上のような事を言っている人は、スキルアップを放棄していると思います。
必ずしも評価=お金ではありませんが、一番分かり易い評価はお金(報酬)です。スキルアップして表現できることを増やすのは、個人の魅力を更に伸ばします。
ずっと応援してもらう為にも、進化をする方法を学ぶしかありません。すると、お金は切り離せない問題になります。自分の為にも、ファンの為にも、スキルを磨き続けていくことが重要です。
またもし、「何となく芝居を始めた」とか、「ちやほやされてお金持ちになれそうだから」と言った理由で表現の世界に入った人は今この瞬間に辞めましょう。
普通に生きた方が10、000倍楽です。思っているほど楽ではないし、お金なんて儲かりません。浮ついた気持ちで表現をする人はこの記事も読まない方がいいですし、表現に関わることはハッキリ言って人生の無駄使いだと思います。
人の心を動かすには、先ず自分の心が動いている必要がある

誰かを楽しませたいと考えているのであれば、先ず自分が楽しまないと人に影響を与えることは不可能です。
芝居に関わる世界では、共演者も同じです。一緒に仕事をする仲間も感動させないと良い仕事をしたとは言えません。
元気の無い人を見て、楽しい気分になれるかと言ったら無理ですよね。
例えば、愛の告白をするシーンがあったとします。
こういうシーンを演じても、行動と表現したいシーンが伴っていないと観る人は納得できません。
抱きしめる女性を本気で愛していて一緒に歳を重ねていくプロセスをイメージしながらさっきのセリフを言うのと、心は虚無で全く気持ちが乗っていない台詞を喋るのではどちらが良い芝居かと言ったら、前者です。
リアリティ(本当にそう見える事)を表現する上では、リアル(本当の事)に近づける必要があるんですね。
この部分はどんな業界でも似ていてもう一つ例を挙げるとしたら、保険を売るセールスマンが居たとします。
セールスマンは、「この保険、すごくいいんですよ!!是非ご検討ください。」と言いますが、何が良いのか具体的ではないし『あ、こいつ自分で使ったことないんだろうな。』って客には見透かされます。
信用してもらえないので、一気にハードモードに突入して成約できません。
逆に、「この保険、病気で入院した際に生活費の最低保証はもちろん、ご家族の生活費も支払われるんです。私が病気で入院した際に60日間働けませんでしたが、その間ずっと家族の生活費を受け取ることができたので治療に専念できて本当に助かりました。」
という、実体験に基づいた「感謝」と「経験」を話すことができるので、これにお客さんのことを本気で考えている気持ちが上乗せされたら、「少なくとも話は聞いてもいいかな?」になってチャンスが生まれます。
お芝居も、ダンスも、歌も営業もなんでもそうですが、人を対象としているサービスでは、自分の心が動いて初めて何かを伝えることが可能になります。
人を感動させたかったら、先ず自分が感動するということが大前提です。
良い芝居をしたかったら、経験を深めて感動を上乗せできる役者になるべきです。
ここで言葉の意味も考えてみたいと思います。
芝居の意味と語源
昔は、お寺でお芝居が行われていました。今はエンターテイメントや娯楽としてお芝居が親しまれていますが昔は神聖な行事だったようですね。その時、芝生の上で行われていたり、見物席が芝生の上だったということから「芝居」という呼び方になったそうです。(諸説あり)
今では芝居=演劇という認識になっています。
つまり、芝居とは「何かの役を演じること」というように定義できます。
また役者=俳優(はいゆう)と呼ばれたりしますが、この言葉もほぼ同義語であり明確な違いはありません。
芝居に関わる人は全て役者と呼ばれています。昨今、声のお芝居をメインで行う人を声優と呼んだりしていますが、結果として声優も役者です。
メインで扱うジャンルが違うだけで、やっていることは同じなのです。
では俳優と役者はどう違うのでしょうか?これも諸説あるのであえて僕が聞いた言葉を説明します。
俳優とは、「人ならざる者」と書いて俳優です。つまり、人間でありながら芝居を通じて人間でない者を演じられる人という意味だと教えてもらいました。
つまるところ、想像を絶する演技力を持った役者ということではないでしょうか。
テレビやメディア、アニメなどで最前線で活躍している有名な役者は観る人全てに認められています。
もっと言うと、「〇〇さんは映画俳優だ。」とか「〇〇さんはすごい声優だよね。」など、ファンや視聴者といった方々にどう認識されているかという部分が重要なのだと思います。
自分で「俺は〇〇だ!」と言って認知してもらえる場合もありますが、周りにこの人はこんな人と認識されることの方が大切なのだと僕は考えています。
役者という生き方の難しさ

・毎日努力できるか?
・価値ある仕事をし続ける人。
・芝居以外の仕事が大事。
一つずつ解説します。
毎日努力できるか?

「毎日努力できるか?」という点では、役作り、筋トレ、発声、台本を読む、アクセントの確認、言葉の言い回しの理解、台詞の裏側に隠れた意図を理解するために考察する、作品チェック…など毎日やるべきことが盛りだくさんです。
常に自分の表現を磨いていかなければならないため、365日24時間フル稼働でいないといけません。
退屈しなくて良いのですがその反面、非常にエネルギーが必要になります。
実体験が芝居の肥やしになるので、世の中の全てに興味を持って取り組むと、役作りが楽になります。
価値ある仕事をし続ける人

役者、声優、舞台俳優など、ジャンルは様々です。共通して、仕事を得る為にはオーディション(以下AD)で決まります。
仕事をすると、同時に「経歴」にもなります。役者目線で考えると、お金と経歴の二つを手にして初めて良い仕事ができたと言えます。更に、関わった作品が評価され次回作への出演が決まれば尚良しです。
同時に、活躍し続けることは非常に困難です。自分、見てくれる人(ファン)、制作側の全てを満足させないと次がありません。
一般社会人に比べフリーランス寄りな生き方なので、仕事を得る為には相当ハードルが高いです。
・表現力が足りていなければ、ADには合格しません。
・見てくれている人(ファン)を満足させられなければキャスティングミスだ!と叩かれます。
・制作側に良い芝居を提供できなければ、途中降板(クビ)であったり、次の仕事は2度ともらえなくなります。
最低限この3つをクリアして「ちょっと有名」になります。
毎日寝る間を惜しんで自己の人間性を高めていく努力を行います。文字通り寝る時間もなければ、遊びに行くことややりたいこと、家族、友人、恋人など全てを犠牲にしないと続けられない生き方なのです。
ブラック企業がなんだ、パワハラがなんだという世間のニュースを背にして、歯を食いしばり続けるので人生のコスパは最悪です。
これでも、自分の表現を好きだと言ってもらえたり肯定してくれる人がいてくれるから、こういった究極の環境下でも次の一歩を踏み出すことができます。
生半可な覚悟では、価値ある仕事は提供できません。
売れない役者は、月に1万も稼げません。貧しい環境でも次にステップアップするために、圧倒的な忍耐とプラスのエネルギーで課題をクリアしていくしか方法はありません。
こういった負の環境を、ポジティブにバネに変換できる人格が備わって初めて自分の仕事に価値を上乗せできるのだと思います。
誰かを満足させつつ、自分のことも満たせる人が一流だと思います。
芝居以外の体験が大事

芝居だけやっていれば、価値ある表現が可能かと言うとNOです。芝居をする上で、自らの人生経験がかなり影響しています。
喜びを表現する際には、実際に自分の嬉しかった体験を思い描きながら表現します。感情が実体験に近い方がより鮮明なイメージとして他者に伝わるからです。
同じ理由で、怒りを表現する際にはプライベートであった憤りをイメージします。特に強い怒りの記憶を辿ります。父親と殴り合いの喧嘩をしたことや、いじめられている友達を守るために毅然と立ち向かった記憶など、そういったものをイメージして台詞に感情を乗せます。
悲しい感情を表現する場合は、大事な人の死や、大切な人との別れなど、胸が引き裂かれるような記憶を思い出しシーンに投影します。
感情ではありませんが、日常の自分、等身大の自分で演技を求められることもあるので、日頃から自分はどんなことをしているのか?他人から見たら自分はどんな姿なのか?と言った点でも、自分をよく知る必要があります。
以上のことから、本当にリアルな芝居や、共感を生む芝居をするためには芝居以外の日常から材料を拾ってくる必要があります。
芝居を深める為には、どんな実体験があるか?という点が重要なので、芝居だけしていれば芝居が上手くなるか?というと、限りなくNOです。
人間性を高めつつ努力を続け、日々の体験を心に刻む必要があります。
役者という仕事の素晴らしさ

やった分だけ返ってきます。
逆にお客さんや制作側に感動させられることがよくあります。
これだから役者は辞められない

与える人になれる喜びがあります。
「人の心を動かす=与える」と、与えた分のお礼が返ってきます。ここでいうお礼とは「人の気持ち」です。
基本芝居をすることは、脳や体に嘘をついているのでかなりきつい作業です。芝居には、この辛い作業が必要不可欠です。悲しくないのに涙を流したり、怒ってもいないのに怒りを表現する際にはとんでもない負担が脳や体に影響します。
でもその結果、笑顔や、温かい言葉、涙が出る程嬉しいお手紙をいただけたりします。
苦労するという点では、仕事の内容も様々です。一例として、舞台のステージ数が多く出演時間が長いので肉体的に辛い芝居もあれば、ナレーション収録で原稿が1,500ページあって読み上げるだけで3日かかったりする精神的にしんどい案件もあります。
辛いこともあるけど、自分の頑張った姿を見て「貴方の演じる役が大好きです。これからも応援しています。」そんな温かい言葉を贈ってくれる方もいらっしゃいます。
この瞬間心底幸福な気持ちになるんです。。。
普通に生きていると、こんな嬉しいことってなかなかありません。
人間のナマの気持ちをいただくことに関しては、どんな職業よりコスパは最高です。この気持ちが、また次のやる気を生み出してくれます。辛くても続けてきて良かった!サイコー!!って思えるんです。
これだから役者は辞められない!
食っていける役者(表現者)とは?

役者をやっていると、自分のスタンスに迷うことが多々あります。
これでいいのか?
この先もやっていけるのだろうか…。
芝居することが怖いなぁ…。
いろんな悩みがでてきます。
自分の価値を安売りしない

役者は芝居のノウハウに特化しすぎて、自らの価格設定を怠っています。
芝居をすることが目的になっていて、仕事はどんな内容か?契約内容がきちんとしているか?という部分を全く見ていません。
3日間、ほぼ24時間拘束されて喋る台詞は「あ、鳥だ!!」これだけで、2万円とかの仕事ってザラです。
コスパが最低です。
まず、3日間24時間拘束されたとして、一時間¥1,000の時給に換算してみます。一日は24時間なので一日最低でも¥24,000はもらうべきです。これを3日間と言う事は、¥24,000×3=¥72,000が正しい報酬になります。加えて、現場までの交通費、食事代などその他の経費も最低保証にいれてもらうべきです。
金額面での正当な評価は10万くらいでしょう。
ではそれ以外で何が問題化と言うと、これがめちゃくちゃ有名な監督の映画だったとします。出演することに意味がある場合ですね。経歴を優先するのであれば出るべきですが、生活面ではかなり消耗します。
売れる為に経歴を作って行くことは必要ですが、こんなブラックな仕事を続けていくと何が起こるかと言うと、生活がしんどすぎて「役者を辞める」という結論に辿り着きます。
役者側の知能が足りなかったがために正しい交渉ができず、過酷な条件で仕事を強いられるケースがよくあります。
役者で鬱になる人も結構います。
正当な評価を得られないことに加えて、何故かとんでもなく高い要求が来ます。時には、クライアントによってはマシーンのように扱われます。
役者として大成したいのであれば、「活動の継続を揺るがす問題」はクリアにすべきです。つまり続けて行く環境造りの方が大切だと思います。自分の正しい評価を知ったうえで、例えば「1日¥25,000以下の仕事はやらない」と決めて価値を設定することは自分を守ることでもあります。
これからもファンの前に立ち続けるのであれば正しい知識を身に着け、仕事の条件に殺されない様「やらない事」を決めるべきです。
毎日努力し続ける人が、生き残る人だと思います。
まとめ
記事のポイントをまとめます。
・ファンに感謝しろ。
・辛いけど、楽しい生き方=役者
・人を感動させたかったら、先ず自分の心を動かそう。
・芝居以外の体験が大切。
・自分の価値を安くするな。
何のために役者をやるのか考えてほしい

「役者とは、一種の生き方であって職業ではない。」
尊敬してやまない声優界の重鎮も著書でこういったことを書かれています。
ただ何となく楽しそうだから芝居の世界に入った人や、簡単にお金儲けができそうというミスチョイスで業界にいる人は辞めた方がいいです。
思っているほど楽ではないし、お金は儲かりません。同じ時間別のことに費やした方が圧倒的にお金持ちになれます。
でも、役者を選んだ人ってこういう理由では表現をしていないと思います。
叶えたい夢があって、その手段がたまたま芝居などの表現活動だったというだけです。
自分の「道」を芝居に捧げると選んだ人は、最後まで真剣に向き合いましょう。
思ったより楽しいし、結果は後からついて来ます。

【おわり】